「…ごめんなさい」
「気にしないで下さい」
もうこれで何度目になるだろう。
弁慶の誕生日になると、体調を崩してしまったり、忙しくて誕生日プレゼントの用意が出来ない。
季節の変わり目だから、といえばそれまでだが、悔しくて仕方がない。
「今年こそは絶対!!って思ってたの!」
「えぇ、分かっていますよ」
身体を起こした状態で側にいる弁慶に訴えても、当の本人はくすくす笑いながら、これからあたしが飲まなければいけない薬の用意をしてくれている。
「どうぞ、さん」
「ありがとう…」
手渡された薬は苦そうだけれど、飲まないと良くなれない。
えいっと勢いをつけて飲み干すと、幼子を褒めるかのように頭を撫でられた。
「うぅ〜」
「良く飲みましたね」
「…子供扱い」
「では、こちらの方がいいですか?」
そういうと同時に、あっという間に唇を奪われる。
「!!!」
「…素直な患者さんへのご褒美です」
ぼんっと音を立てそうな程顔を赤らめて、思わず布団へ潜る。
そんなあたしの様子を見て、またも弁慶は楽しそうに笑っている。
――― 誕生日祝われてるの、どっちだ!?
「では、少し休んで下さい。また後で様子を見に来ます」
ぽんぽんと布団を軽く叩かれて、少しだけ顔を出す。
「…行っちゃうの?」
子供扱いされるのは嫌
だけど、大人扱いされるのも照れてしまう
でも、離れて行ってしまうのは…何だか寂しい。
――― やっぱり子供かもしれない
それでも、立ち上がろうとしている弁慶をじぃーっと見つめていると、苦笑いのような表情で足を止めた。
「…君は、いけない人ですね」
「ほぇ?」
「僕は君を子供扱いなんて出来ません。それなのに、そんな表情で僕を引き止めるなんて…」
「え?え!?変な顔してる!?」
慌てて両手で顔をぺたぺた触ってみる。
確かに妙な顔ではあるだろうけども、見直される程おかしな顔してる?!
「…君のように無邪気な策士の前では、僕の策も全て無になるようです」
「???」
そのまま布団から出ていた手を取られ、しっかり両手で握られる。
「さん」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれて思わずビクッと肩をすくめて返事をする。
「君には日が変わると同時に祝いの言葉を頂きましたが…もうひとつ、僕の願いを…聞いて頂けますか?」
「うん!勿論!!何?」
弁慶がこんな風にお願いをしてくれることはない。
元気であれば飛び上がった上、正座をして聞きたいくらいだ。
でも今は横になった状態で弁慶に手を握られている。
せめて視線だけでも…と、思いまっすぐ弁慶を見ていたら、いつもと変わらぬ笑みを浮かべた彼が耳元に顔を近づけ、そっと言葉を紡いだ。
「…」
「え?」
一瞬意味が分からなくて目をぱちくりさせたけど、理解すると同時に徐々に顔に熱が集まる。
「無理は、言いません」
頬に手を添えて、あたしの様子を気遣ってくれる弁慶。
今日は、大好きな…弁慶の誕生日。
お祝いの言葉を一番に贈りたい気持ちに偽りはない。
でも、それだけじゃなく、何か形に残るものが贈りたい。
大好きだからこそ
大好きな人だからこそ…
側にいない時でも、側にいると感じられて貰えるような何かが…
「……っ」
だがしかし、どうすればいいやら…
そんな困惑した状態でも相手は、武蔵坊弁慶様。
何も言わなくても、伝わったかのように、眩しいくらいの笑顔で優しく頬にキスをしてくれた。
「…では、今は休んで下さい。僕も君が眠りにつくまで、ここにいます」
「はい…」
今は、優しい腕に抱かれて目を閉じよう
目が覚めた時には、今度こそちゃんとお誕生日のお祝いが渡せるといいな…